遼寧省営口生れ、瀋陽(yáng)育ちの山峰奇さん（1920年生れ）は、奉天市（現(xiàn)在の瀋陽(yáng)市）大東區(qū)管城街一帯で年少期を過(guò)ごした。家の近くには河があり、近所の子ども達(dá)とカエルやトンボを捕まえたり、コオロギ相撲に興じたりと、何の憂いもない少年時(shí)代を送っていた。當(dāng)時(shí)、奉天市と言えば、奉天軍閥の総帥である張作霖の官邸「張氏帥府」の所在地であったため、治安はよく、市民が安心して暮らせる社會(huì)ができており、各種産業(yè)が栄えた都市であった。

◇世界を一変させた真夜中の銃聲

1931年9月18日、いつもと変わりない1日が終わろうとしていた。夜も更けた頃、中華民國(guó)軍の兵営である北大営あたりから突然、爆音や銃聲が鳴り響き、付近住民は飛び起きた。

就寢中だった山峰奇さんも家族に叩き起こされ、庭に出て見(jiàn)ると、燃えさかる炎の赤い色が目に飛び込んできた。北大営が火事だ、とすぐに分かったが、大人達(dá)ですらも何が起こったのか分からず、あたりは騒然としていた。

「何が起こったのだ？」

「兵営あたりで演習(xí)でもしてるんじゃないか？銃聲や砲音も聞こえるし」

それぞれが勝手に憶測(cè)していても不安は去らない。なぜなら今まで夜中に軍事演習(xí)が行なわれたことなどないからだ。また、実弾射撃訓(xùn)練は一方方向に向けて撃つのが普通である。対向者と撃ち合うことなどないはずだ。どの家もみな驚きと不安の中で夜明けを迎えた。

次の日、山峰奇さんの登校時(shí)間になる前に、奉天市は舊日本軍に占領(lǐng)されていた。好奇心旺盛な山峰奇さんは、ドアの隙間に目を當(dāng)て、外の様子を窺った。道の両側(cè)に舊日本軍の兵士らが並んでいる。道の真ん中をいかめしい重厚な戦車(chē)が通り過(guò)ぎて行く。ガソリンの臭い、舞い上がる砂埃、街中にはためく旭日旗…今でも脳裏に焼き付いている。行き交う戦車(chē)、鉄帽をかぶり編上靴を履き銃剣を手にした兵士、兇暴そうな軍用犬といった、今まで見(jiàn)たこともない光景に、11歳の山峰奇さんはただただ驚愕し、恐れおののいた。すぐに身を翻し、庭の隅に積まれているわらの中に入り、ぶるぶる震えながら身を潛めた。

「日本兵は絶対僕らを殺すに違いない。まだ死にたくない！」と手を合わせていると、しばらくして街に靜けさが戻った。母親の呼ぶ聲が聞こえたので、わらの中から飛び出し、母親にすがりついて大泣きした。

19日になると、奉天市內(nèi)の東北辺防司令部、省政府、市政府、財(cái)政庁、銀行、軍需工場(chǎng)、飛行場(chǎng)などすべてが舊日本軍に占領(lǐng)され、飛行機(jī)260機(jī)以上を含む奉天市にあった數(shù)々の設(shè)備、銃?弾薬がすべて奪取された。

◇亡國(guó)の憂き目、遭わぬ人なし